カテゴリ:詩
山道に灯る小さな明かりに吸い寄せられて、僕はそれを覗き込んだ。
柔らかい電灯の広がるバスの中には、乗客を待つ運転手がひとり。
静かな夜の停留所から、僕を乗せた箱が走り出した。
ゆっくりと回る、車輪の振動。
運転手の手とハンドルが擦れる音が、心地良い。
無言のふたり。
山道を進む。
柔らかな光は流れていく。
「よいしょ」
ときおり聞こえる運転手の声。
一晩寝かせたカレーのような、どこか優しいそれに聞き惚れてしまう。
次の停留所で降りるとしよう。
すこし遠くまで来すぎてしまった。
夜の小さなバスの中で、合図のボタンを軽く押す。
運賃を手渡して頭を下げ、僕は闇に降りていく。
振り返ってもう一度、運転手に頭を下げ、去った。
ひとりだけの乗客が降りた後の話。
手に残された小石を見つめて、残された車内のひとりは少し笑った。
テーマ : ショートショート
ジャンル : 小説・文学
- [2006/11/04 22:32]
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>手とハンドルが擦れる音が、心地良い
シュ。シュ。シュシュー。
運転手の匂い。車にしみついた客の匂い。
それをつつむ夜のネオンの匂い。
すべてがあなたの匂いになる。
プ~ン
>(無題)
ああ、あなたの詩ですねw
>すべてがあなたの匂いになる。
不思議な感覚。